毎日山の旅日記

毎日新聞旅行

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関東/八ヶ岳硫黄岳 大阪・富士登山塾ステップ5

 「本当ならこちらに富士山が見えるのですが」。八ケ岳の硫黄岳(2760㍍)山頂で、稲田正道・登山ガイドが南東の方角を指さし、残念そうに語った。白い雨雲は分厚く、富士山はおろか周囲の山々も見通せなかった。山頂で雨に打たれている男女12人の登山者は、「初心者のためのステップアップ 富士登山塾2019」の参加者たちだ。
稲田ガイドが行程を説明した 稲田ガイドが行程を説明した
 2019年7月中旬、大阪・梅田からバスに乗り、約5時間半をかけて八ケ岳の登山口・美濃戸口(標高1490㍍)にたどり着いた。初日の目的地は標高2220㍍にある山小屋・赤岳鉱泉だ。今回のステップ5の目的は、山小屋の宿泊体験と2500㍍超の高所に体を慣らすことにある。
仮設の橋を渡る参加者の皆さん 仮設の橋を渡る参加者の皆さん
 一行は稲田ガイドを先頭に林道を歩き始めた。2時間ほど歩くと、堰堤(えんてい)広場と呼ばれる空き地に到着した。ここからは沢沿いの登山道を進む。清流の音を聞きながら、木橋や金属製の仮設の橋を何度も渡った。白く透明に輝くギンリョウソウや紫色のアヤメが出迎えてくれた。緩い傾斜の登山道を1時間ほど歩くと、赤岳鉱泉の建物が見えてきた。小屋の向こうには、八ケ岳連峰の主峰・赤岳(2899㍍)の荒々しい山頂が黒々と見える。稲田ガイドが「曇り空なのに、赤岳が見えます。よかったですね」とほほ笑んだ。
赤岳鉱泉の向こうに見えるのは八ヶ岳連峰の主峰・赤岳 赤岳鉱泉の向こうに見えるのは八ヶ岳連峰の主峰・赤岳
 入浴施設もある赤岳鉱泉は、心のこもったおもてなしで知られている。1959年の開業で、長年にわたり岳人の安全を守ってきた。また、豪華な夕食も登山者の間では話題になることが多い。男性陣が案内された大部屋には布団が並べられていた。上下の押入れにも一組ずつ布団が敷かれており、参加者は「押入れの中に布団が……」と驚いた様子だ。この山小屋では布団一つに1人で寝られるように配慮をしている。そのためにも押入れも有効活用しようということだろう。参加者に押入れで寝ていただくわけにはいかない。私が上の押入れを使うことにした。押入れベッドは実は快適なのだ。カプセルホテルのようでもあり、私はゆっくり眠ることができる。夕食は鉄鍋で焼くステーキだった。大食堂には肉の焦げるにおいが充満し、おしゃべりが響いた。ポトフやご飯もお替り自由だ。
ミヤマシオガマ ミヤマシオガマ
 翌日は雨だった。厳しい傾斜の登山道をじっくり登ってゆく。稲田ガイドが「(針葉樹の)シラビソの森を抜けると、(松の一種である)ハイマツが出てきます。その先は(樹木が育たない)森林限界です」と告げた。やがて背の高い木々が消え、地をはうように生えるハイマツ帯に入った。さらに歩むと、稜線に乗った。もう木々は生えておらず、高山植物の世界だ。踊り子の赤い髪飾りのようなミヤマシオガマ、鮮やかな黄色が目にまぶしいミヤマダイコンソウが岩々のすき間に咲いていた。
硫黄岳山頂で記念撮影 硫黄岳山頂で記念撮影
 広い山頂には、我々のほか数人の登山者しかいなかった。レインウェアでの記念撮影では、みんな笑顔だ。「硫黄岳に来られるなんて、考えられない。自力では無理でした」と男性の参加者が語った。さぁ、8月は本番の富士山が待っている。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2019年7月14日登頂)
硫黄岳山頂 硫黄岳山頂
【富士山へ向けて15 質問箱2】 Q どのくらいのペースで歩くのが良いのでしょうか(男性) A 息のあがらないペースが最適です。早く歩くと、すぐに意気が上がってしまいます。男性は他人と競争しがちですが、富士登山は速さを競うものではありません。安全に登って、自力で無事下山することが目的です。また、登りでは登山道は渋滞しがちですが、渋滞は中高年者の味方です。強制的にゆっくり歩けるからです。渋滞にいらいらせずに、友人とおしゃべりしながらゆっくり歩きましょう。
ミヤマダイコンソウ ミヤマダイコンソウ
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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