毎日山の旅日記

毎日新聞旅行

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関西ステップ②六甲摩耶山(2021)

 神戸の摩耶山(まやさん、702㍍)は、優し気な語感が印象的だ。釈尊の生母である摩耶夫人から名づけられたという。山道も歩きやすく、たおやかなイメージがある。
掬星台から神戸の街を望む 掬星台から神戸の街を望む
 登山初心者が富士山登頂を目指す「毎日登山塾」のステップ2が4月18日、摩耶山を舞台に開かれた。参加者16人は早朝、新神戸駅に集まった。高山宗規・登山ガイドが「さぁ、行きましょう」と声掛けをして歩き始めた。
新神戸駅から市街地を抜けていく 新神戸駅から市街地を抜けていく
 15分ほど歩き、登山口のある寺院(雷声寺)に到着した。野生動物の侵入を防ぐためだろうか、寺域は金網のフェンスで囲まれていた。フェンスの扉を開けて、山道へ。いきなりの急勾配が始まった。岩や木製階段の安定した場所に登山靴を置き、足元を固めて一歩一歩慎重に歩いた。高度を徐々に上げると、神戸市内を見下ろせるようになってきた。ウグイスの鳴き声が響き、ツツジの淡い桃色の花が目に映える。
ツツジに見送られて歩く ツツジに見送られて歩く
 休憩中に、高山ガイドがコピーした地形図を見ながら、これから先の登山道について説明した。登山道上には、等高線が狭まり密になった個所がいくつかあった。「こういうところは傾斜が急な場所を指します。ここから先は、急な登り下り、アップダウンがあると理解してください」と高山ガイドは声をかけた。腰を上げた一行は、岩場を登ったり、片側が崖地になっている登山道を通過したりした。対向してきた登山者とすれ違った際には、「山側に避けてください」と声を大きくした。さらに滑りやすい登山道を下る時には、「山でのケガの90%は下りで起きています。腰が引けたまま下りるとこけてしまいます。膝をしっかりと前に出して降りましょう」と丁寧にアドバイスした。
六甲山系の登山道では多くの登山客とすれ違う 六甲山系の登山道では多くの登山客とすれ違う
 山道を3時間ほど登りつめ、摩耶山の山頂にたどりついた。ひっそりとした樹林帯の中に、山名標はあった。「摩耶山頂(標高698・6m) 三等三角点」とあった。山頂が縦走路から外れているせいなのか、山頂を訪れる人はまばらだった。私も何度か登っているが、山頂を踏んだのは初めてだった。さらに、疑念が一つ残った。摩耶山の標高は702㍍と地図に記されている。しかし、山名標には698・6㍍となっている。この食い違いをどう考えたらよいのだろうか。
摩耶山の山頂。展望はない 摩耶山の山頂。展望はない
 さらに阪神間の展望地として有名な「掬星台(きくせいだい)」に移動した。神戸の街並みはもとより、遠く大阪の街も見える。雲間から生駒山地も遠望できた。絶景に心は晴れやかになった。
 帰路は、阪急王子公園駅を目指して山道を下った。道端には、シャガが淡い青紫の花を風に揺らしていた。参加した中高年の女性は「まだまだ体力はないが、富士山を目指して次のステップ3も頑張りたい」と語った。
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】 
展望台から大阪湾を望む。この日は天気が変わりやすく、この後大雨が降った。 展望台から大阪湾を望む。この日は天気が変わりやすく、この後大雨が降った。
山のコラム(4)
 摩耶山のある六甲山系には、イノシシがたくさんいる。以前六甲山を登山した際、休憩した時のことだ。他の登山者がざわつき始めた。「イノシシがいる」との声が聞こえた。
茂みを覗くと、成獣のイノシシがいた。私を見ても無反応だ。動くそぶりもない。刺激してはまずいと私は後ずさりした。これが初めての、そして唯一の野生イノシシとの遭遇だ。なぜ突進してこなかったのか。理由は私には分からない。岳友の1人は「六甲のイノシシに餌をあげる人が絶えず、人に慣れてしまったのかもしれない」と解説してくれた。
昨年は、クマが都市部に現れるニュースをよく耳にした。都市開発に伴い、野生生物の生息地がいよいよ狭まってきた感がある。私には牙をむかなかった六甲のイノシシだが、それは偶然に過ぎない。いつ野生の咆哮を上げるか分からないのだ。クマやイノシシと遭遇しないように、熊鈴などを携行する。見かけたら立ち去る。それが最善だろう(小野)。
イノシシ除けのフェンスは六甲山系でよく見る光景。 イノシシ除けのフェンスは六甲山系でよく見る光景。
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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