毎日山の旅日記

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関東安心安全富士登山 ステップ④甲州高尾山

 高尾山と言えば、東京都八王子市にある標高599㍍の山を思い浮かべる人は多いだろう。2007年、「ミシュランガイド」で3ツ星を獲得したのはよく知られている。年間300万人もの登山者や観光客が訪れるようになり、「世界1登山者が多い」と言われるようになった。
 一方、全国各地にも「高尾山」はある。秋田市、横浜市、京都府京丹後市、大分市、佐賀県唐津市……と東北から九州まで数えただけで、27峰もある。そのうちのひとつに、山梨県甲州市の高尾山(1106㍍)がある。東京の山と区別するためなのか、一般的には甲州高尾山と呼ばれている。
道中から見えた富士山。まだ上部には雪が残っている。 道中から見えた富士山。まだ上部には雪が残っている。
23年6月3日午前、同市内の甲州街道沿いに男女の登山者32人が集まった。初心者が今夏の富士山登頂を目指す実技講習「安心安全富士登山教室」ステップ4の参加者たちだ。彼らは3月に八王子の高尾山(599㍍)、4月・大山(1252㍍)、5月・筑波山(877㍍)と訓練を重ね、この日は1000㍍超の山に初めて挑戦する。「富士山目指して、頑張って登りましょう」の掛け声に、参加者は「オー」と応じた。午前11時半過ぎ、一行は3班に分かれて出発した。
一行を見守るように季節外れに咲くタンポポ 一行を見守るように季節外れに咲くタンポポ
新選組の近藤勇の立像を横目に、登山道に入る。道はいきなり急傾斜となった。先頭の押田七夫・登山ガイドが「我慢してね」と声をかけて、樹林帯の急坂を一歩一歩踏みしめるようにゆっくりと登った。「なるべく小またで。足は逆ハの字で歩いて」とコツを伝えた。登山道をさえぎる倒木もあった。「あわてずにまたいで」と押田ガイドが注意喚起した。急傾斜地でもあり、何度か立ったまま休憩をとった。大きなウエストポーチを腹部にした参加者に、「ウエストポーチは便利ですよね。でも、足元が見えなくなるから、(腰の)横に付ける方がいいですよ」とアドバイスした。午後12時28分、最初の頂である柏尾山(740㍍)に到着し、ここで昼休憩とした。同50分腰を上げて、再び登山道に取りついた。アップダウンの道を登りつめ、徐々に高度を上げてゆく。
柏尾山山頂。鉄塔がそびえたつ。 柏尾山山頂。鉄塔がそびえたつ。
登攀中に自分が石を蹴るなどして落石を起こした際に、後続者に向けて「ラクッ」と絶叫して落石の危険を伝える。富士山の、大小の石が横たわる登山道では実際に耳にしたことが何度もある。押田ガイドは「それでは練習をしましょう」と伝え、参加者とともに歩きながら「ラクッ」と大声を上げた。 山頂が近づくと、富士山の頂が右手に見えるようになった。「富士山が見えましたよ」とガイドが伝えると、女性の参加者が「本当だ。うれしい」「2か月後にあそこに登るんだ」と足を止めた。写真を撮る人もいた。 午後2時22分、甲州高尾山の山頂に到達した。木々に囲まれ、展望はない。押田ガイドとグータッチした参加者は「やっと着いた」と安堵の表情だ。それぞれが山頂標識で記念撮影した後、下山の途についた。
甲州高尾山山頂。木々に覆われ、展望はない。 甲州高尾山山頂。木々に覆われ、展望はない。
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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