毎日山の旅日記

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関西/京都大原三山

 静かな山登りをしたい、と思う人は少なくないだろう。すれ違う人もなく、自然の音色だけを楽しむ。登山の回数を重ねていると、そんなこともままある。だが、静寂さとは裏腹に、そうした山域にはある種の不便さがつきまとう。それゆえに敬遠され、登山道を行き交う人は少なくなる。2018年12月に歩いた京都市の大原三山もそんな山道だった。

 左京区の山間にある古知谷(こちだに)バス停で下車した。名刹・古知谷阿弥陀寺の山門をくぐり、すぐ右手の斜面に取り付く。送電線の鉄塔を目指し、急傾斜を登りつめていく。登るにつれて道らしい道はなくなる。2万5千分の1の地形図では、送電線と登山道が交錯しつつ並走している。鉄塔と送電線を視界に入れて、焼杉山(717㍍)に向かう。

まずは鉄塔を目指して急斜面を登る まずは鉄塔を目指して急斜面を登る

 展望はほとんどなく、うっそうとした森の中を上へ上へと進んだ。ほかの登山者とはまったく出会わない。寒風が走り抜け、木々の葉音がするだけだ。静かな山行と言いたいところだが、登山道の荒廃はかなりのものだった。関西地方に甚大な被害を出した台風のゆえだろうか。多くの木々がへし折られて痛々しい。山道をふさぐ杉の巨木を何度も乗り越えた。斜面に倒木が折り重なり、枝に足をかけてよじ登る。横倒しの幹の下をザックが引っかからないようにかいくぐる。怪我のないようにと用心深く歩いた。木々との格闘は気疲れするものだ。登山者を遠ざけている理由の一端はこれだと思う。

 また、山が深く展望がないため、道に迷ったら遭難に直結する危険もある。地形図には破線の登山道が示されているのだが、実際には踏み跡が不明瞭な場所があちこちにあった。初心者だけの山行は避けた方が無難だ。

倒木の登山道を進む。この程度は序の口だった 倒木の登山道を進む。この程度は序の口だった

 大原三山を構成する翠黛山(すいたいさん、577㍍)、金比羅山(572㍍)への縦走路も同様だった。金比羅山山頂の直前では、京都市街の眺望が得られた。京都御所の森を遠くに見たのは貴重な体験だった。下山路でやっと2人の中年男性と出会った。「こんにちは」と声をかけると笑顔で応じてくれた。人気の山なら1日に何十回も挨拶をするが、1度きりとなった。

 

翠黛山のいわれが書かれている。平家物語に登場する歴史の山だ 翠黛山のいわれが書かれている。平家物語に登場する歴史の山だ

 この山が静かな理由はさらにある。それは人気の観光地・大原にあることだ。京都の里山・大原に向かうバスは、満員の観光客らで往復ともに身動きが取れなかった。お年寄りや子供たちが苦しそうに立っている姿を見るのはつらい。ザックを持ち込むのも気がひける。この不便さが登山者を遠ざけているのではないかと思う。

 京都の観光地に向かうバスは、平日も休日も国内外の観光客でいっぱいだ。混み合うバスを思うと、大原三山の登山口に向かう気持ちもなえてしまう。眺望の良い金比羅山登山と大原観光をセットにして再び訪れたいと思うのだが、どうしたものだろうか。

【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】

焼杉山山頂。山名の標識も傾いていた 焼杉山山頂。山名の標識も傾いていた

●アクセス● 大原三山の登山口は、大原バス停を中心にいくつかある。各バス停と登山口の位置関係を登山地図などで確認しよう。混雑したバスを避けるのであれば自家用車かレンタカーということになるが、渋滞と駐車場の確保という課題がある。バスに座りたいのであれば、始発バス停で発車時刻の30分以上前に並び行列の先頭近くを確保しよう。また、臨時便も出る可能性があるのでバス会社に確認したい。計画を立てるには、「京都大原観光保勝会」のホームページが便利だ。

https://kyoto-ohara-kankouhosyoukai.net/

●翠黛山● 軍記物語「平家物語」に描かれた山。珍しい山名だが、「翠黛」とは青っぽい色、または緑色のまゆずみで描かれた美しい眉のことという。緑色にかすむ山の例えともいわれる。いずれにしても、美しい里山として大原の人たちに愛されていたのだろう。

金毘羅山山頂直下からの京都市外 金毘羅山山頂直下からの京都市外
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを経て現在、関連会社「毎日企画サービス」顧問。
2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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