毎日山の旅日記

毎日新聞旅行

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関西/大阪登山記録と金剛山

 大阪府と奈良県の県境にある金剛山(1125㍍)に、400回以上も登った男がいる。大学時代の友人で、大阪の公立学校で教鞭を執っている。彼に言わせると、「1万回以上登った人がいるので、まだまだ」ということになる。低気圧が接近しつつある2月の休日、その友人と金剛山を目指した。南海電鉄の金剛駅で待ち合わせし、彼の運転する乗用車でバス停「ロープウェイ前」に向かった。バス停は登山口の目の前にあり、トイレなどもある。人気の山らしく、大勢の登山者が笑顔で下山してきた。

山頂広場。大阪平野を一望できるが、白い雲の中だった 山頂広場。大阪平野を一望できるが、白い雲の中だった

 私たちの出発時刻は午後2時だった。こんなに遅い時間に1000㍍峰に登るのは初めてだ。友人はザックも背負わず、水筒も持っていない。ストックを右手に持ち、飄々(ひょうひょう)と登ってゆく。迷いのない足さばきに、「歩き慣れてるな」と直感した。スタート地点の標高は600㍍を超えている。山頂まで2時間かからない。下りは1時間と目算が立つ。暗くなるまでには降りられるだろう。巨木「千早のトチノキ」を横目に見ながら、林道を進む。左手の樹林帯に細い登山道があった。友人は「こっちだ」と言い、狭い木の階段を上ってゆく。階段は凍結しており、注意が必要だ。スギ林の急斜面が続く。路面は溶けた霜柱でドロドロになっている。滑らないように慎重に足を上げ下げする。

巨木・千早のトチノキ 巨木・千早のトチノキ

 標高750㍍を超えると、凍結した雪に路面が覆われ始めた。スリップが心配なので、友人が用意してくれた4本爪の軽アイゼンを付けた。私には脱着が簡単なタイプを貸してくれ、友人は装着に時間がかかるものを使った。寒気の強い中でアイゼンを付けるのは手早く終わらせたいものだ。配慮に感謝した。アイゼンを付けると、安心して雪面を歩ける。氷と化した地面にグリップを効かせてしっかり立てるのが心地よい。

急傾斜地をゆっくり登る 急傾斜地をゆっくり登る

 急傾斜地を無事に越えて、緩斜面になると山頂は近い。寒風が吹き付ける中、山頂広場に着いた。広々とした展望台だ。だが、ここは正確には山頂ではない。実際の山頂は葛木神社の神域となっているため、立ち入り禁止だ。低気圧の影響で、眺望は全くない。白い雲の中ではいくら目をこらしても、大阪平野は見ることはできなかった。また訪れることにして早々と引き返すことにした。

雪というより凍結した路面だった 雪というより凍結した路面だった

 帰途につく前、友人は広場近くの事務所に立ち寄った。この山には独自の登山回数記録システムがある。彼はここで473回目の判を専用カードについてもらった。1枚のカードには10個の判子が押せる。つまり登山10回分の記録ということだ。カードの隅には「48」の通し番号があり、どこか誇らしげだ。以前は週に1回は通っていたと言い、子供が幼かったころには金剛山でキャンプをしたこともあるという。そのご子息も大学生となり、自宅を出ている。金剛山に登る頻度も月1度になったと語る。「仕事が忙しくなってなぁ。あまり来られなくなった」。473回という途方もない記録には、彼の一家の思い出も刻まれている。

 旧友と2人、来た道を引き返した。30数年ぶりの再会だ。おしゃべりに夢中になり、斜面を転がり落ちないように気をつけながらの下山となった。

【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2019年2月3日登頂)

「山頂」とあるが、本当の山頂は立ち入ることができない 「山頂」とあるが、本当の山頂は立ち入ることができない

●文殊尾(文殊尾根)● 今回歩いた登山コースの名称。難易度は中級以上。昨年夏の台風で通行止めとなっている場所もあり、迂回路の急斜面は注意が必要だ。特に冬場はスリップや木の根に足を引っかけての転倒、滑落に気をつけたい。

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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを経て現在、関連会社「毎日企画サービス」顧問。
2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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