毎日山の旅日記

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関西/兵庫故郷の摩耶山

 港町・横浜と神戸は比べられることが多い。外国人居留地や中華街など共通点もたくさんある。どちらも歴史のあるかけがえのない街と思うのだが、横浜出身の私から見て、神戸に譲らなければならないことがひとつある。それは六甲の山々の存在だ。  100万都市が裾野に広がり、緑をたたえた山が海上にせり出す風景は日本ではここだけではないか。都市の持つ機能美と自然の美しさが、渾然(こんぜん)一体となった様は目を引くと思う。
白梅が見ごろとなっていた 白梅が見ごろとなっていた
 2019年2月、六甲連山の中程にそびえる摩耶山(702㍍)に登る機会を得た。  阪急・王子公園駅から徐々に勾配のきつくなる坂道を上り、青谷登山口を目指した。閑静な住宅街と寺社を抜けると、小さな登山口が出迎えてくれた。「朝は静かに」との注意書きが、宅地と隣り合わせであることを教えてくれる
青谷道登山口。住宅の脇を歩く 青谷道登山口。住宅の脇を歩く
 青谷川の小さな流れに沿うように登山道は設(しつら)えられている。コンクリートや石の道を黙々と登る。平日とあって行き交う人もまばらだ。  ひと汗かいたころに、観光茶園があった。神戸市内唯一の茶畑という。光沢のある緑色の葉を見ていると、日本茶の渋みが口中に広がった。思わず水を一口含んだ。
神戸で唯一の観光茶園があった 神戸で唯一の観光茶園があった
小一時間もすると、焼け落ちた寺の伽藍(がらん)跡に到達した。646年に孝徳天皇の勅願により建立された天上寺の跡地という。昭和51(1976)年1月に火事で焼失したと立て札にはある。古刹(こさつ)の信者たち、そして神戸の人々の悲しみはいかばかりであっただろうか。古びた石柱が往事を忍ばせてくれる。  また、境内の外れでは、杉の巨木が根本付近から折れ、無残な姿をさらしていた。昨年(2018年)の台風でなぎ倒されたという。旧天上寺跡は、火事と台風の恐ろしさを同時に教えてくれる貴重な場になっている。  ここまで来れば山頂まであと一息だ。杉木立の道を登り詰めると、頂(いただき)に到達した。広場から神戸の街を遠望した。曇りがちで海上は見通せない。だが、港や高層ビル、家並みが見え、人の息づかいが立ち上ってくるようだ。寒風がほほをなで、風切り音が耳元で鳴った。海と山の小さなハーモニーだろうか。
巨大な倒木が看板を押しつぶしていた。この下をくぐるのも勇気がいる 巨大な倒木が看板を押しつぶしていた。この下をくぐるのも勇気がいる
人っ子1人いない広場には小さな歌碑があった。なぜか作者名も題名も刻まれてはいない。
  「摩耶山はわたしたちの象徴 この山を仰いで この麓の里を わたしたちの先人も 私たちも 精いっぱい 守り 育て 生きついできました この愛する故郷が この後に続くものに  平和な 栄光に満ちた 天地でありますように」
祈りをこめて故郷への思いを率直に歌い上げている。「平和な天地でありますように」と私も祈らずにはいられない。
繁栄を誇った堂宇も今はない。旧天上寺跡。 繁栄を誇った堂宇も今はない。旧天上寺跡。
 そして、ハマっ子たちが歌い継いできた「横浜市歌」を思わず口ずさんだ。「わが日の本は島国よ……」。身体は遠くにあっても、誰が故郷を思わないだろうか。摩耶山に立ち、望郷の念は募る。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2019年2月21日登頂)。  
山頂の広場から。神戸の街並みが一望に。 山頂の広場から。神戸の街並みが一望に。
【灘温泉 水道筋店】今回は青谷道を登り、上野道を下山した。上野道は神戸の街並みを真正面に見ながら歩ける。いずれの登山口も起点は王子公園駅となる。同駅間近の入浴施設は「灘温泉 水道筋店」(神戸市灘区水道筋1丁目26番地)だ。大人430円で天然温泉に入れる。脱衣所や入浴施設はそれなりの広さで、筆者は快適に過ごすことができた。帰りに水道筋商店街の居酒屋を利用できるのも便利だろう。
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを経て現在、関連会社「毎日企画サービス」顧問。
2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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