毎日山の旅日記

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中国/鳥取大山 大阪・富士登山塾ステップ3

 鳥取県の大山(だいせん、1729㍍) は広い裾野と雄大な山容で知られる。西日本最大といわれるブナ林や国の特別天然記念物・ダイセンキャラボクの純林など自然も目を見張るものがある。だが、登山者にとって登りやすい山かといえばそうでもない。登り下りの登山道のほとんどに階段が設けられている。階段の山といっていいほどだ。延々と続く階段を想像すると、それだけで気が滅入ってくる。
大山の北壁が姿を見せた。荒々しさが印象的 大山の北壁が姿を見せた。荒々しさが印象的
 2019年6月中旬、私は標高800㍍ほどの夏山登山口にいた。山登りの入門者が富士山を目指す「初心者のためのステップアップ 富士登山塾2019」のステップ3が大山で開かれ、11人が参加した。降りしきる雨の中、長尾明美・ツアーリーダーが「階段がずっと続きます。ゆっくり歩きます」「では、出発しましょう」と声をかけた。全員が登山用のレインウェアに身を包んでいた。日本最高峰を目指している皆さんだけに、雨の準備に遺漏はないようだ。富士山は必ず晴れるとは限らない。むしろ雨の確率が高いと思っていた方が無難だ。その意味でも、雨中の登山は最良の予行演習と言えるだろう。
いざ富士山へ。富士登山塾参加者のみなさん いざ富士山へ。富士登山塾参加者のみなさん
 夏山登山口はいきなり階段で始まった。土のステップを踏みしめて、ゆっくりと足を運ぶ。階段といっても山歩きの基本は変わらない。歩幅を小さく、息のあがらないペースを守り続けることだ。特に登りの階段はテンポが乱れがちになる。できるだけ段差の小さい部分に足を置いたり、ステップの上を2歩に分けて歩いたりと工夫が必要だ。長尾リーダーは「2、4、6合目で休憩を取ります。大体30分おきです」と参加者に呼びかけた。休みを一定間隔で取ることもペースを維持するのには有効だろう。では、なぜ階段が多いのか。大山の土質は柔らかく、登山者の踏みつけによって路面がえぐられてしまう。えぐられたまま放置すると、木の根が露出するなど環境に悪影響を及ぼす。そのために階段として整備して、土砂の流出を防いだのではないかと思う。
美しいブナ林を歩く。緑一色の世界だ 美しいブナ林を歩く。緑一色の世界だ
 雨脚はさらに強くなり、2合目から先は傾斜も厳しくなってきた。タニウツギのピンク色の花が目にまぶしい。「暑いと思ったらフードを(頭から)外して風を通してください」とアドバイスが飛んだ。標高1280㍍ほどの6合目に到着した。小さな避難小屋があった。ここで2人の参加者がリタイアした。すでに数百段もの階段を登ってきた。雨も強い。体力に自信がなければ棄権するのも賢明な判断だ。むしろ1000㍍を超える場所までよく歩いた。本番の富士山でも勇気ある撤退は大切なことだと思う。
雨に煙るタニウツギ 雨に煙るタニウツギ
 残る参加者は一息ついた後、黙々と山頂を目指した。やがて樹林帯は終わり、ダイセンキャラボクの林となった。木道が一本道となって我々を導いてくれる。だが、濡れた木道は要注意だ。滑りやすく転倒の恐れがある。長尾リーダーは「(木道の)滑り止めに足を置いて滑らないように」と話しかけた。正面に避難小屋が見えれば、山頂の弥山(みせん)は間近だ。ほどなく頂に立ったが、乳白色の霧が広がるだけだった。だが、参加者の顔には満足感があった。雨と階段を克服し、伯耆(ほうき)富士と呼ばれる大山を制覇したのだ。
ダイセンキャラボクの中を歩く。山頂はもうすぐだ ダイセンキャラボクの中を歩く。山頂はもうすぐだ
 下山は行者登山道をたどった。今度は下りの階段が続く。雨は止み、雲間に青空がのぞき始めた。ブナ林の緑の濃さには目を奪われた。そして、荒々しい大山の北壁も姿を見せた。青空に薄茶色の岩壁が映える。なんと雄大な景色だろう。心地よい疲れの中を、参加者は帰路についた。目前に迫った富士登山の8月。体力、装備共に準備は整いつつある。   【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2019年6月8日登頂)
大山山頂。霧に包まれ展望はなかった 大山山頂。霧に包まれ展望はなかった
【富士山へ向けて10 山小屋3・着替え】富士山の山小屋には原則として着替える場所はない。どうしても着替える場合はトイレを利用することになる。だが、着替える人もそういない。山小屋では眠るというよりは仮眠するという形に近く、着の身着のままで横になる。ただ雨や汗でぬれてしまった場合などは、到着後にすぐに乾いた衣服に着替えよう。
山頂付近のイワカガミ 山頂付近のイワカガミ
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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