毎日山の旅日記

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関東・丹沢空中散歩の表尾根

 神奈川県・丹沢の表尾根は、三ノ塔(1204㍍)、烏尾山(1136㍍)、塔ノ岳(1491㍍)などの山々を結ぶ稜線だ。1500㍍に満たない低山の連なりだが、太平洋を間近に見る大らかな展望は見るものをひきつけてやまない。
多くの登山客で賑わう塔ノ岳山頂 多くの登山客で賑わう塔ノ岳山頂
2020年2月の晴天の日、小田急秦野駅に集合した私たち一行は、バスで登山基地となるヤビツ峠に向かった。峠で装備を整え、登山口へ。登り始めて1時間もすると、背後に太平洋の海原と、巨大な三角錐(すい)のような大山(1252㍍)を見ることができた。 二の塔山頂で一休みした後、三ノ塔に登り返す。20分程度で広い山頂に到着した。ここからの眺めが表尾根縦走のハイライトのひとつだ。うねるように続く稜線がすべて見渡せる。烏尾山の頂(いただき)には三角形の屋根をした山小屋がたたずむ。塔ノ岳にも山小屋「尊仏山荘」が小さく見えた。青空に浮かぶ白雪の富士山は息をのむほど美しい。吹く風は冷たいが、雄大な景色に胸が高鳴る。「まるで空の中を歩いているよう」。同行の女性は笑顔で言った。天空の散歩道といえようか。
多くの尾根が連なり、遠くに富士山も。 多くの尾根が連なり、遠くに富士山も。
三の塔からは急斜面を慎重に下った。残雪や凍結した路面が随所にあり、丁寧な足さばきが必要だ。続く烏尾山の山頂も広々としていて清々しい。行者ケ岳から先はストックをしまおう。わずか数㍍ほどだが岩場がある。鎖も付いており、慌てずゆっくり下降すれば問題はない。通過ポイントとなる新大日にはベンチがあるのだが、ひどいぬかるみが広がっていた。ここで昼食をとって一息ついた。ここまで来れば、塔ノ岳までは小1時間だ。山頂直下の厳しい登りを耐えて歩みを進めた。深く息を吸い込み、足の運びはゆっくりと。これが登りの鉄則だ。
山の上には山小屋が見える。山頂までもう少し。 山の上には山小屋が見える。山頂までもう少し。
塔ノ岳は大勢の登山客でにぎわっていた。ここでも富士の英姿が見えた。南アルプスの白い頂も遠望できた。相模湾に江ノ島がポツンと見える。右手に伊豆半島、左手に三浦半島があり、相模湾を抱く腕(かいな)のようだ。
雪を纏い、これぞ「富士山」という姿 雪を纏い、これぞ「富士山」という姿
伝統の山小屋・尊仏山荘で休憩した。この小屋は質実剛健を経営方針にしている。土産物も華美なものを嫌い、オリジナルの山バッチとバンダナだけだった。しかし、最近はTシャツを売り出したという。小屋主の花立昭雄さんは「売れてるよ。1日に4着出る日もあるよ」と笑顔だ。紺地に白いヤマユリの花が愛らしい。夏にはこれを着て塔ノ岳に登ってみよう。
シンプルなTシャツに、胸元のヤマユリがアクセントに シンプルなTシャツに、胸元のヤマユリがアクセントに
帰りは、大倉尾根を下った。この尾根にはマメザクラの木々がたくさん自生している。3月下旬になれば、可愛らしい桃色の花を幾重にもつける。春がとても待ち遠しい。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2020年2月8日登頂)
野生のシカがこちらをじっと見ている 野生のシカがこちらをじっと見ている
【日本百名山と丹沢】エッセイ集「日本百名山」(深田久弥・著、新潮文庫)には、丹沢山(1567㍍)が取り上げられている。だが、丹沢山だけが百名山というわけではない。深田氏は「私が百名山の一つに丹沢山(丹沢山というのは山塊中の一峰である)を取りあげたのは、個々の峰ではなく、全体としての立派さからである」と記している。つまり、塔ノ岳や神奈川県の最高峰・蛭ケ岳(1672㍍)も日本百名山ということになる。丹沢山塊の奥深さを実感したいなら、表尾根から先の蛭ケ岳まで歩いてみよう。「山の規模は大きく複雑で、容易にその全貌をつかめない」(同書)と紹介された丹沢山塊を満喫できるだろう。筆者の登山コラム「稲光の丹沢主脈縦走」もお読みいただければ幸いである。
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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