毎日山の旅日記

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関東安心安全富士登山ステップ1・高尾山

 東京都西部の高尾山はまぎれもなく低山だ。標高599㍍。この高さの山ならどこにでもある。だが、その自然や歴史は並みの山ではない。  まず、その植物の豊富さは特筆に値する。1600種類もの植物が生育しており、その数は英国一国に相当するという。この自然の豊かさからだろうか、2007年にミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで3ツ星を獲得した。ミシュラン効果なのか、年間で300万人もの人々が訪れている。登山者数としては世界1の山だろう。  また、高尾山の開山は744(天平16年)と言われている。以来1200年以上にわたり信仰の山として、時々の支配者の尊崇と庇護を受けて現代に歴史を繋げている。  さて、登山者にとって高尾山は、入門の山と言える。四季を通じて自然を愛でながら歩ける。登山口から山頂まで約2時間程度の距離だ。ケーブルやリフトも利用できる。
にぎわう高尾山山頂 にぎわう高尾山山頂
 2022年3月25日午前9時半、京王電鉄高尾山口駅前に、18人の男女が集まった。今夏に富士山登頂を目指す「富士山教室」の参加者で、ほぼ全員が登山初心者という。駅近くの広場で、ベテランの山岳ガイド、太田昭彦さんが登山靴のはき方、ストックの使い方を伝えた。 「靴ひもは、フックの上から下へとかけると引っ掛かりがよくなります」。参加者は真新しい登山靴のひもをたどたどしくかけ直した。「両手でストックを持つと、自分の足と併せて4本足になります。身体のバランスをとりやすくなります」「疲れにくくなります」と丁寧にアドバイスした。
登山前に、ストックの使い方や山での歩き方をレクチャーする太田昭彦ガイド 登山前に、ストックの使い方や山での歩き方をレクチャーする太田昭彦ガイド
 平日だというのに、登山口への道は観光客でごった返していた。6号路の登山口に到着すると、太田ガイドは「ここから登山道に入ります。一列になってください」と呼びかけた。沢沿いの道を進む。20分ほどで、琵琶滝に着いた。春の花であるヨゴレネコノメソウが咲いていた。気づいた参加者が駆け寄り、さかんに撮影していた。10分間の休憩の後、「さぁ、登りましょう。本格的な登山になります」と気を引き締めた。
春を彩るヨゴレネコノメソウ 春を彩るヨゴレネコノメソウ
 ここからは急傾斜の登りとなる。土や石、岩の上を歩く。参加者はゆっくりと歩みを進めた。「(足は)前後に小さく、左右に広く」と指示が飛んだ。後ろから追い抜いていく人、前からすれ違う人々もいた。「追い越される時は足場の良いところを選んで待ってください」「足場のよい所はどこかと言えば、山側です。谷側ではありません」と太田さんは声をからした。途中休憩を挟み、約1時間でメインルートの1号路に合流した。山頂までは30分程度の道のりだ。地上に露出した根っこ部分がタコのように丸くなった「タコ杉」や巨木の杉並木の道を、大勢の観光客らと一緒に歩いた。
タコ杉について解説する太田ガイド タコ杉について解説する太田ガイド
 午後12時半ごろ、一行は公園のように広々とした山頂に到着した。青空の下、人々は記念撮影や食事をしてくつろいでいた。「ここで昼食にしましょう」と太田ガイドが声をかけた。それぞれが石垣や階段に座り、弁当を広げた。  帰路は4号路を下った。前夜の雨によるぬかるみが随所にできていた。木の根の露出も多い。片側が切り立った崖地が続き、転落の恐れもある。「足元、ぬかるんでいます」「安定したところに足を置いて」「根っこに気をつけて」。注意喚起が飛んだ。高尾山で唯一の吊橋「みやま橋」を渡ったのち再び1号路に入った。そのまま下山し、高尾山口駅まで戻ってきた。体操の後、太田さんは「富士山に登るには、毎月2回は山に登りましょう。そうすると体力が付きます。一回はこの富士山教室でお願いします」と参加者を励ました。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
高尾山で唯一のつり橋「みやま橋」で笑顔 高尾山で唯一のつり橋「みやま橋」で笑顔
【高尾山マガジン】 登山を楽しむためには、事前にガイドブックなどを購入することが多い。高尾山にも数多のガイドブックがあるが、便利なホームぺ時がある。それが「高尾山マガジン」(https://mttakaomagazine.com/)だ。高尾山の歴史や登山道の紹介のほか、グルメ情報も満載されている。登る前に閲覧したい。
高尾山名物の「天狗焼」。焼きたてが香ばしくておいしい 高尾山名物の「天狗焼」。焼きたてが香ばしくておいしい
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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