毎日山の旅日記

毎日新聞旅行

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奈良毎日登山塾ステップ1・二上山

 「磯の上に 生(を)ふる馬酔木を 手(た)折らめど 見すべき君が 在りと言はなくに(岩のそばで咲く馬酔木(の花)を手折って、あなたに見せたいのに、あなたが居るとはもう誰も言ってくれない) 大伯皇女(おおくのひめみこ)」  最古の歌集「万葉集」に収められた歌だ。読み人の大伯皇女が、謀反の疑いで処刑された弟・大津皇子(おおつのみこ)を偲ぶ心情が読み込まれている。  奈良県と大阪府にまたがる二上山(雄岳517㍍)には、この大津皇子の墳墓がある。掃き清められた墓前には「天武天皇皇子大津皇子墓 宮内庁」との看板が掲げられている。本当に大津皇子が埋葬されているのか、今となってはわからない。ただ、その墓の前に立つと、愛する家族を失った悲しみが、1000年の時を超えて伝わってくるようだ。
二上山山頂 二上山山頂
 二上山に登ったのは、2022年3月27日のことだ。今夏に富士山登頂を目指す「安心安全富士登山塾2022」(主催・毎日新聞旅行)のステップ1として開かれた。塾は低山から高山に徐々にステップアップし、体力と技術を磨き、富士山に登り、自力で下山しようという企画だ。 午前9時過ぎ、近鉄線二上神社口駅前に、18人の登山者が集まった。登山初心者が多く、登山靴もリュックサックも真新しい。村野匡佑・登山ガイドが「さぁ、出発しましょう」と声をかけた。山麓の神社で、一行は登山靴の靴ひもを締め直した。村野ガイドは靴のフックを指さし、「(フックの)上から下へひもを引っかけてください」と話した。参加者も靴ひもを力強く引き締めた。
麓から見た二上山 麓から見た二上山
 歩き始めの小1時間ほどは急傾斜の登山道が続いた。前日の雨の影響でぬかるんでいた。靴が泥に沈み、何度も滑った。村野ガイドは「できるだけ安定したところに足を置いてください」と声をあげた。木道に差し掛かると「濡れた木は滑りやすくなっています」「心して歩いてください」と注意喚起が飛んだ。  休日でもあり、すれ違う人々は多い。村野ガイドは「山側に避けてください。足場のよい所を選んで」と声をからした。さらに、大津皇子の墓を横目に見て、一行は登りつめた。
大津皇子の墓 大津皇子の墓
午前11時24分、雄岳山頂に立った。さらに鞍部(山と山の間の低地)を経由して雌岳(474㍍)へ。同46分に頂に到着した。奈良や大阪市街が一望できた。参加者から「遠くまで見える」と歓声が上がった。馬酔木の白い花も風に揺れていた。古代の人々も、その可憐な花を眺めていたのだろう。
山頂で揺れる馬酔木の花 山頂で揺れる馬酔木の花
山頂で昼食をとった後、村野ガイドが登山に必要な持ち物や、荷物のリュックサックへの詰め方を伝えた。「リュックの下の方には着替えなどすぐには使わない物を入れます」「上には雨具など、いざという時に取り出せるものを入れましょう」と教えた。その後一行は当麻寺駅を目指して下山路をたどった。男性参加者は「今年はぜひ富士山に登りたい。そのために頑張りたい」と意欲を新たにしていた。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】
リュックサックの荷物の詰め方を解説する リュックサックの荷物の詰め方を解説する
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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