毎日山の旅日記

毎日新聞旅行

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静岡毎日登山塾ステップ6・富士山 (8/21発)

 山々の影が湖水や地上、雲海に映る姿を、高山で時折目にする。この自然現象は、富士山では「影富士」と呼ばれる。2022年8月22日午後4時過ぎ、御殿場ルートの標高3300㍍付近に建つ山小屋「赤岩八合館」。その前で、大勢の登山客が歓声を上げた。「すごい迫力」「見て、大きな影!」。そう口にしながら、盛んにスマートフォンやカメラの撮影ボタンを押した。
彼らの眼前には、白い雲海の上に、薄墨を流したような影富士の姿があった。時間を追うごとに、影はみるみる成長してゆく。その巨大な三角形は、実際の富士山よりはるかに大きくなっているだろう。大自然の織り成す、圧巻の影絵に眼も心も奪われた。
雲海の上に姿を見せた巨大な影富士 雲海の上に姿を見せた巨大な影富士
影富士を目撃した登山者の中に、毎日新聞旅行の「富士登山塾」の参加者18人がいた。塾では、登山初心者が富士山登頂を目指して、3月からトレーニング登山を重ね、8月にあこがれの頂への登頂を目指す。21日午前8時に大阪・梅田を専用バスで出発し、六合目の山小屋「雲海荘」で一夜の宿をとった。
22日午前4時半過ぎ、小屋の前に集まった参加者に、高山宗規・登山ガイドは「山頂とここ(六合目)では、温度差があります。フリースなどの防寒着を用意してください。レインウェアも風を防ぎます。ザックからすぐ出せるようにしてください」とアドバイスした。同55分に小屋を出発した。
荒涼とした宝永第一火口底 荒涼とした宝永第一火口底
20分も歩くと、大きなすり鉢状の大地に降り立った。宝永第一火口底という。1707(宝永4)年に大噴火した時の火口跡だ。麓(ふもと)の村々を火山灰で埋め尽くし、降灰は江戸まで届いたと記録にある。未曽有の災害に、江戸時代の社会と経済は大きく混乱した。荒涼とした火口底に身を置くと、「もし、今同規模の噴火が起きたら、江戸時代のように私たちの生活は大打撃を受けるだろうな」と実感せざるをえない。ここに来るたびに、登山の喜びよりも、大自然への畏怖を覚えてしまう。富士山は現在も活動を続けていることを忘れてはならない。
夏の雲がわく中を、山頂に向かう 夏の雲がわく中を、山頂に向かう
火口底での休憩の後、砂ザレの斜面を登り詰めた。一歩歩くたびに登山靴は砂に埋まり、靴ごと後に運ばれてしまう。悪戦苦闘の後、午前10時前に、山頂間近で休憩を取った。高山ガイドは「いよいよ頂上にアタックします。体力だけでなく、(登るという)気持ちが大切です」と励ました。 荒涼とした岩場を歩き、午前11時40分、山頂に到達した。「やった」と笑顔の壮年がいれば、涙を流す女性もいた。日本最高地点の剣ケ峰では、それぞれが記念撮影をし、「やりましたね」「頑張りましたね」と互いをたたえ合った。富士山頂での交歓は、登山塾ならではの光景だろう。
最高地点の剣ケ峰 最高地点の剣ケ峰
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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