毎日山の旅日記

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八ヶ岳 安心安全富士登山 ステップ⑥八ヶ岳・硫黄岳

「晴れたっ」「硫黄岳が見えるよ‼」。赤岩の頭(かしら)と呼ばれる硫黄岳の稜線にいた人々は、荒々しい岩の山頂を指して叫んだ。山旅の最後に、硫黄岳(2760㍍)は姿を現した。頂(いただき)にいた時は白い霧に包まれていただけに、喜びもひとしおだ。
雲間に姿を見せた硫黄岳 雲間に姿を見せた硫黄岳
2023年7月10日朝、この劇的な体験をしたのは、まいたび(毎日新聞旅行・東京)の「安心安全富士登山教室」の参加者37人だった。教室は3月に開講し、登山初心者が高尾山(東京都)から徐々に標高の高い山に登り、夏には富士山の山頂に立つ企画だ。硫黄岳は富士登山直前であり、体力と実力を試す場でもある。また、山小屋の宿泊体験も兼ねている。
一行は9日午前7時半過ぎ、専用バスで東京・新宿を発った。10時ごろ、登山口である美濃戸口(長野県茅野市)に到着した。3班に分かれ、次々に登山道に入っていった。渡辺四季穂・登山ガイドは「ゆっくりでいいですよ。ゆっくり歩きましょう」「雨が降らないうちに(山小屋に)着けるといいですね」と語りかけながら、林道を歩いた。ギンリョウソウの白い花、クリンソウの赤い花が夏の到来を告げていた。午後1時15分ごろ、堰堤広場という林道の終点に到着した。橋を渡ると本格的な登山道が始まる。「斜めに傾いた石には足を置かないで」「基本的に足はフラットに置きます」と声がかかった。沢にかかる木橋を何度も渡った。手すりはなく、バランスを崩せば転落する。「木の橋は、1人ずつゆっくり渡ってね」と注意が飛んだ。
濡れた木橋を慎重に渡る渡辺ガイド 濡れた木橋を慎重に渡る渡辺ガイド
午後2時55分、山小屋・赤岳鉱泉に着いた。数人ずつの相部屋で、山小屋というより古い旅館のような雰囲気が漂う。夕食は名物のステーキ定食だ。肉の焼ける匂いに、登山への英気を養った人もいるだろう。
10日午前5時、山小屋の前に集まった。渡辺ガイドは「高尾山(599㍍)1個分くらい(の標高差を)登ります。途中の登山道はつづら折りになっており、かなりきついです」と説明した。天気予報は雨のため、「雨具をすぐに出せるように」と付け加えた。5時過ぎに樹林帯の登山道に足を踏み入れた。
赤岳鉱泉 赤岳鉱泉
赤岳鉱泉名物・ステーキ定食 赤岳鉱泉名物・ステーキ定食
歩き始めて30分もすると、道は険しくなってきた。「ここから急登です。歩幅を狭く」との声が飛んだ。きつい登りに耐えて、赤岩の頭に7時11分にたどり着いた。ここからは岩がちな道を登ってゆく。山頂直下の岩場は高度感がある。女性の参加者が「怖い、怖い」と声を上げた。「危ないところは、(参加者同士の)間を空けて」「浮石に注意して」と注意喚起があった。そして、同48分、硫黄岳山頂にたどり着いた。「やっと着いた」と男性が安どの声を漏らした。写真撮影を手早く済ませて下山にかかった。帰路は同じ道をたどる。バスの待つ美濃戸口には午後2時前に戻ってきた。女性は「あとは富士山を残すのみ。頑張ります」と語っていた。
霧の硫黄岳山頂 霧の硫黄岳山頂
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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