毎日山の旅日記

毎日新聞旅行

powered by 毎日新聞大阪開発株式会社

静岡毎日登山塾ステップ⑥富士山(プリンスルート)

 「ここからは気持ちが大切です。絶対に登るぞという気持ちです」。ベテランの登山ガイド、高山宗則さんが後ろを振り返り、25人の参加者に呼びかけた。急傾斜の、岩がちな登山道を登り詰めて来た人々の反応は、目でうなずく者、じっと聞き入る者、大きく息をつく者とさまざまだ。しかし、目指す富士山の山頂は、もう目の前に迫っていた。
 23年8月4日午後零時20分、最初の一人が御殿場口山頂の、白い鳥居をくぐった。高山ガイドとハイタッチを交わすと、2人、3人と続いた。「やった!」「しんどかった」「お世話になりました」「ありがとうございました」。それぞれの思いを吐露しながら、苦しげな表情が笑顔に変わってゆく。全員が念願の富士山山頂に立つことができた。
富士山・剣ケ峰で集合写真 富士山・剣ケ峰で集合写真
 一行は、毎日新聞旅行が主催する「富士登山塾」の受講生たちだ。3月の二上山(517㍍、奈良県・大阪府)を皮切りに毎月、訓練登山を重ねてきた。山の標高を徐々に上げ、6月には八ヶ岳の硫黄岳(2760㍍、長野県)に登頂するなど準備を整えてきた。
最後に目指す剣ケ峰 最後に目指す剣ケ峰
 同日午前5時過ぎ、富士宮ルート六合目の山小屋・雲海荘前に一同は集合した。すでに標高は2400㍍を超えている。下界は猛暑だが、山は涼しく、半袖では寒いほどだ。高山ガイドが「今日の登りは長くなります」「ただし、登山者は多くないと思います。ゆっくり登れます」「前の人にしっかり付いて歩いてください」と声をかけた。そして、「一番の目的は、病気もけがもせず、全員が無事に登頂し、降りることです」と伝え、「さぁ、出発しましょう」と歩き始めた。
山小屋を出発したが、まだ朝日は稜線に隠れている 山小屋を出発したが、まだ朝日は稜線に隠れている
 まず、1707年の噴火跡である宝永山第一火口底に降り立ち、そこから山頂を目指して高度を上げてゆく。高山ガイドはゆっくりと歩く。背後に、銀色にきらめく山中湖が見えてきた。「山中湖が見えますね」と話しかけると、振り向いてスマホのシャッターボタンを押す人もいた。午前10時過ぎに、山小屋・赤岩八合館に着いた。宿泊場所でもあり、山頂アタックに必要のない荷物を預けた。
宝永山・馬の背まで登り返す。富士山山頂は遥か遠く。 宝永山・馬の背まで登り返す。富士山山頂は遥か遠く。
10時56分、御殿場口八合目に到達した。参加者の疲労の色が濃い。誰もが無口だ。高山ガイドは「ここから岩が多くなります」「つづら折りに登ってゆきます」と話した。落石事故の恐れがあり、多くの人が登山用ヘルメットをかぶった。急斜面の登山道の先には、山頂が見えてきた。「さぁ、もう少しです。あそこに山頂の祠(ほこら)が見えます。頂上はもうすぐです」と励まし続けた。そして、全員が登頂を果たした。
御殿場口の山頂に着いて、髙山ガイドをグータッチ 御殿場口の山頂に着いて、髙山ガイドをグータッチ
帰路は、宝永山山頂に立ち寄り、富士山の頂(いただき)を背景に記念撮影をした。苦しかった山旅も、晴天に恵まれたうえ、全員の登頂と無事下山で終えることができた。
下山の宝永山にて記念写真 下山の宝永山にて記念写真
感想をお寄せください

「毎日山の旅日記」をご覧になった感想をお寄せください。

※感想をお寄せいただいた方に毎月抽選でポイント券をプレゼントいたします。

〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

ページ先頭へ