毎日山の旅日記

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関東・丹沢鍋割山の鍋焼きうどん

  登山の目的はいろいろある。美しい景色を見たい、体を鍛えたい、ストレスを発散させたい……人それぞれだ。神奈川県の丹沢山系・鍋割山(1272㍍)の場合は、「鍋焼きうどんを食べに行く」という登山者も多いだろう。 山頂の山小屋「鍋割山荘」の名物は、熱々の鍋焼きうどんなのだ。「鍋焼きうどんを食べたい。連れて行ってほしい」と登山初心者の女性たちに頼まれたこともある。

ただし、鍋割山の取り付きはよくない。登山基地である大倉バス停を基点にすると、西山林道を2時間近く歩いて、ようやく登山口にたどり着く。ほかにもいくつかルートはあるが、いずれも山頂は遠い。

 最短は小田急線渋沢駅からタクシーを利用して、西山林道の終点近くまでショートカットしてしまうことだ。実はこのコースはあまり知られていない。
木の橋を慎重に渡る 木の橋を慎重に渡る
 2019年1月、渋沢駅にて山仲間と待ち合わせた。総勢8人でタクシー3台に分乗し、「県民の森」ゲートを目指した。同ゲートまで20分ほど。料金は1台につき2530円、1人当たりは900円余りだ。これでたいくつな林道歩きをパスできるのだから、安いものだろう。
 鉄製ゲートの前で身支度を整え、歩き始めた。林道を15分もたどれば、登山口となる二股に到着する。ここからは500㍍ほどの標高差を登り詰めることになる。
 樹林帯の急斜面をゆっくり登る。平坦な場所は少ない。山頂と勘違いする偽ピークもある。2時間半ほどの歩行時間なのだが、もっとかかっているような錯覚に陥る。山頂に近づくと、ブナが目立ってくる。霧状の雲の中に、冬枯れしたブナが立ち尽くす姿は幻想的だ。ブナの林は鍋割山が連なる鍋割山稜に多く、見所のひとつといえよう。
登山口付近のペットボトル群。水道水が詰めてある。鍋割山荘に運んでほしいとボランティアに呼びかけている 登山口付近のペットボトル群。水道水が詰めてある。鍋割山荘に運んでほしいとボランティアに呼びかけている
 登山道の向こうに白銀のソーラーパネルが見えると、そこが山頂だ。山頂はお椀を伏せたように丸く、広々としている。もしかしたら山名の由来もそのあたりにあるのかもしれない。晴れていれば富士山も見えるのだが、雨がちでそれは望めなかった。
 早速山荘に出向き、鍋焼きうどんを注文した。この日は登山者も少なく、頼んでからほどなくありつけた。混んでいる時に70人待ちを経験したこともある。
山頂に続く登山道。ブナなどが並んでいる 山頂に続く登山道。ブナなどが並んでいる
 寒い日に食べる鍋焼きうどんは、大変なごちそうとなった。真ん中に落とされた玉子、カボチャの天ぷら、大判の油揚げ2枚、長ネギ、各種のキノコなどがぐつぐつと音を立てていた。冷気に白い湯気が立ち上る。みんな歓声を上げてはしをつけて、無言でいただいた。私はつゆまで飲み干した。不思議なことに四肢に力がみなぎった。食べ物の疲労回復力のなんとすごいことか。
 お値段は1200円という。2011年の登山記録には980円とあるから、200円以上の値上げとなった。「エビ天も入っていないのに値段が高い」という向きもあるかもしれない。だが、足の速い魚介類は山で食べるのは避けた方が無難だ。
 
鍋焼きうどん。手前にカボチャの天ぷらキノコも見える 鍋焼きうどん。手前にカボチャの天ぷらキノコも見える
 下りは来た道を忠実にたどった。もちろん「県民の森」ゲートには予約したタクシーを待たせておいた。地元の日帰り温泉に直行したのは言うまでもない。冬の山中は日暮れも早い。暗くなった林道をとぼとぼと歩くよりは、タクシーなど乗用車で時間を節約した方が安全でもある。時にはタクシーやレンタカーを使うのも、安全登山には必要だろう。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
 
鍋割山荘。鍋焼きうどんののぼりが目立つ 鍋割山荘。鍋焼きうどんののぼりが目立つ
●県民の森ゲート●同ゲートに出向くには本文にもある通り、渋沢駅からタクシーが便利。地元のタクシー会社で登山の数日前に予約しておこう。「予約でいっぱい」と断られることもあるので注意を。ゲート前には駐車場もあるが、数台分しかない。乗用車やレンタカーの方は朝早く到着したい。
●トイレ● 今回のコースでは3カ所ある。渋沢駅改札内、駅外の公衆トイレ、山頂の公衆トイレだ。
鍋割山山頂 鍋割山山頂
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〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを経て現在、関連会社「毎日企画サービス」顧問。
2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

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