毎日山の旅日記

毎日新聞旅行

powered by 毎日新聞大阪開発株式会社

関西/奈良の山ステップ①二上山(2019)

 千里の道も一歩から、と言う。山登り初心者の中高年にとって富士登山も同じことがいえる。いきなり富士山に挑むのは、体力的には無理がある。だから、低山からはじめの一歩を踏み出したい。  とはいえ、どんな手順で登って良いのか、見当もつかない人も多いだろう。そんな皆さんのために、「初心者のためのステップアップ 富士登山塾2019」を開講した。低山の日帰り登山から3000㍍峰の山小屋泊まりなどを3月から毎月体験していただき、8月にはあこがれの富士山に挑戦するというものだ。
双耳峰の二上山が見えてきた 双耳峰の二上山が見えてきた
 その第1段階となる講習会が奈良県の二上山(517㍍)で開かれた。 午前9時半、近鉄・当麻寺駅(奈良県葛城市)に32人が集まった。登山靴やザックが真新しい人もいる。あふれる意欲が見て取れる。「さぁ行きましょう」と村野匡佑・登山ガイドが声をかけた。車道を歩いて登山口へ。二上山の双耳峰(そうじほう=山頂が2つある山のこと。ネコの耳のように見えなくもない)が遠くに見えだした。「あそこまで行きます」と高山宗規・登山ガイドが話すと、「あんな遠くへ……」と女性参加者がつぶやいた。  30分ほど歩いて登山口付近の広場に到着した。準備体操の後、靴ひもの結び方を伝えた。「フックにひもをかける時は、フックの下から上ではなく、上から下にかけるとほどけにくくなる」「足が靴の中で遊ばないようにしっかり締めて」。実践的な内容に参加者もうなづいた。
出発前に登山靴のはき方、ひもの結び方を学んだ 出発前に登山靴のはき方、ひもの結び方を学んだ
 登山道に入ると、路面は木の根や岩などで凹凸が増してきた。段差もある。街中の舗装道路とはまったく違う。杉林の中の急斜面をゆっくり登る。ガイドたちはそれぞれ二上山の歴史や植生について解説した。その度に参加者は足を止めて聞き入る。ガイドの話をしっかり聞くために足を止めて、息を整えることができた。富士山でも自然観察などを行いながら、数分程度の小さな休憩を繰り返すことが大切だ。  午後零時10分ごろ、双耳峰のひとつ雌岳(474㍍)に到着した。おにぎりやパンの昼食を手早く取り、再度出発した。階段の急斜面をじっくりと登り、午後1時過ぎには雄岳にたどり着いた。日だまりの中、ガイドとハイタッチして登頂を祝った。
雄岳に到着し、ハイタッチをする参加者 雄岳に到着し、ハイタッチをする参加者
 下山は斜度が急な登山道が続き、緊張を強いられた。登山ガイドからは「歩幅を小さく」「ゆっくり細かく歩いてください」とアドバイスがあった。  奈良市から参加した60代の主婦は「今日は楽しかった」と笑顔だ。「富士山に向けて頑張りたい。下りを安定して歩きたい」と意欲を見せた。富士登山は誰かが連れて行ってくれるものではない。自分の体力、山の経験が無事に登頂して下山する鍵となる。特に中高年者は、事前の練習登山を豊富にこなしておきたい。努力をすれば日本一の山頂は必ず踏める。 【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2019年3月2日登頂)
雌岳の山頂。大きな日時計があった 雌岳の山頂。大きな日時計があった
【富士山へ向けて1 持ち物その1】まず絶対に必要な持ち物は、ザック(リュックサック)▽登山靴▽レインウェアの3つだ。  ザックは登山専用のものを選ぼう。ウェストベルト、チェストストラップ(胸ベルト)など、自分の身体とザックを密着させる機能があるものが必要となる。登山靴はくるぶしをしっかりと守るハイカットのものにしたい。レインウェアも登山専用のもので、上下セパレート、身体の蒸れを逃し雨水を通さないゴアテックス素材が条件となる。  とはいえ、初心者1人での買い物は不案内だろう。そういう時は登山道具専門店の店員に「富士山に行くための装備をそろえたい」と声をかけよう。また、ザック、登山靴は必ず試着すること。見た目のデザインや価格だけで選んでしまうと、身体に合わないこともままある。  また、登山道具は決して安くはない。登山道具店の会員にあらかじめなっていると、割引を受けられる店も多い。買い物の前に割引制度があるか確認しよう
大津皇子の墓所 大津皇子の墓所
【二上山】雄岳の山頂付近には悲劇の王子・大津皇子の墓所がある。大津皇子は飛鳥時代の皇族で、政争の果てに24歳で自害したと伝えられる。姉の大伯皇女は「うつそみの人なる我(われ)や明日よりは 二上山(ふたかみやま)を弟世(いろせ)と我(あ)が見む」と偲んだという。また、今回の山行ではほとんど見られなかったが、可憐なタチツボスミレがたくさん咲くことでも知られている。花期は3月。ぜひ出かけて観察しよう。
笑顔の参加者の皆さん。富士山でもお会いしましょう 笑顔の参加者の皆さん。富士山でもお会いしましょう
感想をお寄せください

「毎日山の旅日記」をご覧になった感想をお寄せください。

※感想をお寄せいただいた方に毎月抽選でポイント券をプレゼントいたします。

〜山記者の目〜プロフィール
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長

ページ先頭へ