中辺路のはじまりを歩く
紀伊田辺駅近くの『道分け石』は、かつて熊野詣の人々が中辺路(なかへち)と大辺路(おおへち)のどちらへ進むかを選んだ歴史的な分岐点で、ここから巡礼の旅が始まります。各所にある『王子』とは、熊野三山の神々を遥拝するための拠点であり、本宮へ近づくにつれて信仰心を深める役割を果たしていました。町の風景は、次第に里山の景色へと変わっていきます。八上王子は、西行法師ゆかりで、南方熊楠によって守られた重要な王子の一つとされ、熊野詣の歴史を今に伝えています。稲葉根王子は、熊野詣における重要な禊の地であった富田川に近く、古くは水で身を清め、穢れを祓う「水垢離」を行ってから熊野の神域へ入ったと伝えられ、熊野信仰の根底にある「よみがえり」の思想を象徴する場所のひとつです。富田川流域を離れると道は徐々に山へ向かい、滝尻王子へと続きます。滝尻王子は、熊野九十九王子の中でも特に格式の高い五体王子の一つであり、古くから「ここより熊野の神域に入る」と考えられてきました。そして石畳や山道を登り、高原熊野神社へ。熊野信仰において歩くこと自体が祈りであり、町から里へ、里から山へ、田辺から高原までの道のりは、俗世から神々の世界へと心を導く巡礼の始まりの章といえるでしょう。